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前橋地方裁判所 平成8年(行ウ)7号 判決

原告

齋藤安治

右訴訟代理人弁護士

小林勝

春山典勇

被告

群馬県収用委員会

右代表者会長

渡辺明男

右指定代理人

森田均

高橋茂男

福田日出明

高杉洋一

岩瀬春男

石澤隆

被告補助参加人

群馬県

右代表者知事

小寺弘之

右代理人弁護士

戸所仁治

右指定代理人

小倉豊人

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、参加により生じたものを含めて原告の負担とする。

事実及び理由

第三 争点に対する判断

本件の争点は、抽象的には本件裁決が適法であるか否かであるところ、具体的には原告主張の違法事由(以下単に「違法事由」ともいう。)の存否であるので、以下これに沿って検討する。

一  違法事由1(一)(裁決申請の周知手続の欠如)について

土地収用法四二条一項及び四七条の四第一項は、収用委員会が、起業者から収用裁決申請書及びその添附書類を受理したときや、起業者から明渡裁決の申立てがあったときには、市町村長に対して右申請書等の当該市町村に関係ある部分の写しを送付するとともに、土地所有者及び関係人に収用裁決申請や明渡裁決申立てがあったことを通知して、それらの者の意見を提出する機会を保障しなければならない旨規定するが、収用委員会において二週間の縦覧期間を設定すべき旨や収用委員会が土地所有者及び関係人に対し縦覧期間について通知しなければならない旨を規定しておらず、他に収用委員会がそのような義務を負うと解すべき理由も見当たらない。

なお、法四二条二項及び四七条の四第二項は、右送付を受けた市町村長において、収用裁決申請等があったことなどを公告するとともに、右書類を二週間公衆の縦覧に供することとされているところ、前記被告に対する収用裁決申請などの通知並びに板倉町長による公告及び縦覧のなされたことは〔証拠略〕により、これを認めることができる。

よって、前記違法事由がある旨の原告の主張は採用できない。

二  違法事由1(二)(審理手続上の違法)について

原告は、高の提出した意見書を被告が付属書類として扱った点を審理手続上の違法事由として主張するが、前記認定のとおり、高は、土地所有者である原告の子に過ぎないのであるから、たとえ、将来原告を相続する等これを承継することが予定されている者であるとしても、高は、法四三条の「土地所有者」及び「関係人」(同法八条三項参照)には当たらないし、その他四三条の意見書を提出できる者にも当たらないから、被告が、高の提出した意見書を付属資料に過ぎないものとして扱った点に違法はない。

また、〔証拠略〕によれば、平成八年一月一八日の被告における審理の際には、原告の他、コヨと高が原告を代理ないし補佐する者として出席し、十分発言していたと認められるのであり、原告主張のような審理手続上の問題があったものとは認められない。

被告が審理の際に原告、コヨ及び高の発言を遮ったり、コヨらの発言を歪曲したとの原告の主張に沿う〔証拠略〕も存在するが、前掲証拠に照らし採用できない。

審理手続が違法である等の原告の主張も採用できない。

三  違法事由1(三)(収用裁決の申請の不当性)について

1  〔証拠略〕によれば、本件事業に係る用地買収の経緯については、左記のとおり認定できる。

(一)  板倉町は、開発区域が決定した後の平成三年六月二三日から二六日にかけて自治体単位での説明会(「東洋大学を核とした板倉ニュータウン(仮称)開発区域に関する説明会」)を開催し、計画区域を発表するとともに、用地買収へ協力を依頼し、必要な者にはできる限り適当な代替地をあっせんする努力をする旨説明を行った。

原告は、右説明会のうち、二三日に東部公民館で行われた説明会に出席した。

(二)  企業局は、買収価額や補償の交渉を公平に行い、全体的な合意が形成しやすくなるように、買収対象となる本件事業地内の所有者に地権者会を結成してもらうこととし、板倉町を通して地権者に働きかけ、平成三年一〇月二八日、「板倉ニュータウン地権者協議会」という名称の地権者会が結成された。

企業局は、平成四年五月二六日、右地権者会と土地買収単価及び補償基準について合意に至った。

(三)  原告と企業局側の用地買収交渉は平成三年七月一七日から始まり、板倉町の都市開発課職員、同町ニュータウン建設課職員、企業局職員、町長、町会議員、地権者会の会長・副会長らが、約四〇回以上にわたって原告宅を訪れ、原告に対し開発への同意を求め、代替地についての話し合いをした。

企業局は、本件土地の時価や造成後の地理状況、原告方の家族構成等様々な事情を総合的に勘案しながら、原告の要求になるべく応じられるような代替地として、平成五年二月五日から同年三月二六日にかけて、三〇〇坪程度で県道沿いの土地等九箇所(一〇筆)の代替地を提案したが、原告は、駅から遠くなることや駅の裏側になること等の点でこれらを不服とし、分家住宅用地として利用できるように造成して上下水道の設備を整備することを求める等した。企業局は、他の地権者と均衡を欠く代替地補償はしないつもりであったことから、原告の右のような要求をいれた代替地提供はできず、原告と代替地の合意に至らなかった。

企業局は、平成六年五月中旬ころ、新駅予定地が決まり、本件土地の一部がかかることになったため、原告にその旨及び収用もありうる旨知らせた。

原告もコヨも、同年八月以降、板倉町の職員や企業局の職員が代替地の話合いに来ても、話合いを拒むようになった。

(四)  企業局は、平成七年二月には、群馬県及び板倉町と東武鉄道との間で新駅設置に関する覚書が締結され、本件土地が鉄道用地の一部にかかっており、年内には駅の工事も始まる予定であったことから、同年七月末をもって原告との交渉を断念することとし、群馬県は、同年一〇月一三日、被告に本件土地の収用裁決を申請し、明渡裁決を申し立てた。

2  なお、〔証拠略〕中には、〈1〉部落の長に逆らえずに買収にやむなく応じた人もおり、企業局は強権的に土地を収用しようとした、〈2〉企業局は、当初甘言を弄していながら、実際に提示した代替地は、いずれも家を建てられないような土地であった、〈3〉他の買収に応じない者への見せしめに、村八分にされている原告が収用の対象とされたとの記載ないしは供述もあるが、1に掲げた証拠及び同認定事実に照らし、採用できない。

3  また、後記のとおり、本件事業認可に至るまでの地元説明会及び公聴会の開催等の周知手続についても不適切な点は認められない。

以上のとおり、本件裁決の申請等の不当性という原告の主張は、採用できない。

四  違法事由1(四)(法八二条による代替地あっせん不十分)について

1  前記争いのない事実等及び〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

被告は、前記のとおり、群馬県からの収用裁決の申請及び明渡裁決の申立てを平成七年一〇月一九日に受理したことから、同月二三日付け書面により、原告に対し、その旨通知するとともに、群馬県の主張に意見があれば縦覧期間(二週間)内に意見書を提出するように催告した。

原告は、「どうせ駅が出来るなら息子居るな(「か」の誤記か)ら、宅地として一人一五〇坪上げられると教えていただき、二人居るので三〇〇坪は残してやろうと決めて、ニュータウンの話で町長さんが始めて家に来た時おたずねして其の事を聞いた時其れは出来ると言ったので三〇〇坪だけは残す条件で約束したのですが」等と記載した意見書を被告に提出した。

被告は、平成八年一月一八日、原告、原告の代理人としてのコヨ及び高並びに群馬県の代理人の出席のもとに審理を行った。

被告が本件事業計画に対する意見を問うと、コヨは、ニュータウン計画には賛成だが代替地が条件であると答えたので、被告は、収用しようとする土地の区域、土地所有者等の確認をし、交渉経過、土地の補償等について説明を行った。被告は、原告らに対し、代替地の希望について尋ねたところ、コヨは、本件土地が駅の設置される位置にあるのだから、二人の息子のために駅の近くに三〇〇坪の宅地が欲しい旨を述べ、具体的な土地を指定しなかった。

被告は、原告の本件土地が約三二〇〇万円の評価であるのにその代替地要求は約九〇〇〇万円のものとなることから、価格的に相当ではないと考え、代替地による補償は行わないこととし、本件裁決を行うに至った。

2  右認定のとおり、被告は、代替地の要求ととれる原告の意見書や審理における原告及び原告代理人の陳述を検討し、原告の要求を認めなかったこと、それは、本件土地の評価額に比し、三倍に近い評価の代替地の取得要求であったためであることが認められる。そうすると、原告の代替地要求は、法八二条二項の定める「要求が相当」であるとの要件を充たすとは到底いえず、被告は代替地の裁決をすることはできないという外なく、被告が原告の要求を認めなかったことに違法、不当はない。

よって、右に関する原告の主張も採用できない。

五  違法事由2(本件事業認可に関する違法等)について

1  違法性の承継(違法事由2(一))について

(一)  まず、本件事業認可に関する違法事由を、本件裁決の違法事由として主張しうるか、すなわち、いわゆる違法性の承継を認めることができるかにつき以下検討する。

都市計画法五九条による事業認可も、これにより当該事業の施行者に土地の収用又は使用の権限が付与され、事業地について建築制限などの法的な効果を生じるのであるから、国民の権利義務に直接変動を及ぼすものとして、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたると解される。そして、一般に、行政処分は、これに瑕疵があったとしても、それが重大かつ明白である場合を除き、権限のある機関によって取り消されない限り有効とされ(いわゆる「公定力」)、先行行為の違法が当然に後行行為に承継されることはない。

しかしながら、先行行為と後行行為とが同一の目的を追求する手段と結果の関係をなし、これらが相結合して一つの効果を完成する一連の行為となっている場合には、一連の行為の目的ないし法的効果は最終の行政行為に留保されているとみることができるから、後行行為の不服申立手続において先行行為の瑕疵を争うことを許すべきであり、違法性の承継を認めるのが相当である。

そこで、このような関係が本件事業許可と本件裁決の間に見られるか否かにつき検討するに、法は、起業者が事業のために土地を収用しようとするときは、建設大臣又は都道府県知事による事業の認定を受けなければならず(一六条、一七条)、建設大臣又は都道府県知事は、起業者の申請に係る事業が法定の要件を満たす場合に事業の認定をすることができ(二〇条)、事業の認定がされた場合には、起業者は、事業認定の告示のあった日から一年内に限り収用委員会に収用の裁決を申請することができ(三九条)、収用委員会は、申請却下の裁決をすべき一定の場合を除いて収用裁決をしなければならないと定めている(四七条、同条の二)。このように、土地収用法に基づく事業認定と収用裁決は、相互に結合して当該事業に必要な土地の収用という一つの法的効果の実現を目的とする手段と結果の関係にある一連の行政行為であると言うことができる。そして、都市計画法五九条に基づく都市計画事業の認可又は承認は、土地収用法の事業認定に代わるものとされている(同法七〇条一項)のであるから、法の事業認定と収用裁決との関係と同様、右認可は、後行行為である収用裁決と相互に結合して土地の収用という同一の法律効果の実現を目的とする手段と結果の関係にある一連の行為であると言える。

したがって、本件事業認可に関する違法は、本件裁決に承継されると解するのが相当である。

(二)  都市計画事業認可に関する違法性について

そこで、建設大臣による都市計画事業の認可が違法とされる場合が如何なる場合であるかにつき検討する。

都市計画法は、「都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与すること」を目的とし(一条)、「都市計画は、農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきこと」(二条)を基本理念として掲げており、これらを達成するために、都道府県知事が、都市計画に関する基礎調査として、都市計画区域について、おおむね五年ごとに、人口規模、産業分類別の就業人口の規模、市街地の面積、土地利用、交通量その他の事項に関する現況及び将来の見通しについての調査を行うこと(六条)、計画的な市街化を図るため、都市計画区域を区分して、市街化区域及び市街化調整区域を定めること(七条)、都市計画基準については、当該都市の特質を考慮して、一三条一項各号の定めるところに従って、土地利用、都市施設の整備及び市街地開発事業に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを、一体的かつ総合的に定めなければならないこと(一三条一項柱書)、「前各号の基準を適用するについては、第六条第一項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づき、かつ、政府が法律に基づき行う人口、産業、住宅、建築、交通、工場立地その他の調査の結果について配慮すること」(同項一五号)等を規定している。

右のように、都市計画事業も、法の定める基準及び手続に従って都市計画を決定し、計画に基づき施行されなければならないのであるが、その基準は、右のとおり抽象的に規定されているに過ぎない上、都市計画という都市の機能、環境、発展等に重大な影響を与える事柄の性質上、専門、技術的な判断が重要となり、諸般の事情を総合的に検討しながら、効率的かつ合理的に決定する必要があると解せられる。

また、都市計画法二四条は、都市計画が土地の利用に関して権利を制限しあるいは義務を課すものであること等に着目して、建設大臣が都市計画決定権者である都道府県知事を後見的に監督する権限を持つことを規定しているが、その場合についても「国の利害に重大な関係がある事項に関し、必要があると認めるときは」と極めて限定しているのであり、同法六一条は、五九条の事業認可の要件として、「申請手続が法令に違反せず、かつ、申請に係る事業が次の各号に該当するときは、第五九条の認可又は承認をすることができる。」、「事業の内容が都市計画に適合し、かつ、事業施行期間が適切であること(一号)、「事業の施行に関して行政機関の免許、許可、認可等の処分を必要とする場合においては、これらの処分があったこと又はこれらの処分がされることが確実であること」(二号)と規定し、既に定められた都市計画の内容を原則として尊重することを当然の前提としていると解されるのである。

以上からすれば、都道府県知事等による具体的な都市計画の内容の決定は、第一次的には決定権者の裁量に委ねられ、これが都市計画法の定める基準に著しく反していたり、その判断に社会通念上著しく不相当な点があり、その裁量権の範囲を逸脱し、又は裁量権の濫用があるような場合にのみ、当該都市計画決定が違法となると解するのが相当であり、そして、建設大臣等による都市計画事業の認可が違法となるのは、その申請のあった都市計画事業の内容たる都市計画が、都市計画法の定める基準に著しく反していることや、都道府県知事等の裁量権の逸脱や濫用のあることが明らかな場合であるにもかかわらず、敢えて認可したような場合に限られると言うべきである。

原告は、本件事業の認可によって法二〇条による土地収用事業の認定に代わるものとされていること、本件事業による収用事業は、優良農地を収用し、これを公共施設としてではなく第三者の住宅地として供給していること等を理由として、本件事業認可が適法と言えるには、本件事業が法二〇条の要件及び新住法の要件を充たすか厳格に判断しなければならないと主張するが、右のとおりであって、採用できない。

2  本件事業認可の違法性(違法事由2(二))について

(一)  前記争いのない事実等及び後記各項末尾の証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1) 板倉町は、群馬県の東端の渡良瀬川と利根川に挟まれた地域に位置する人口約一万六〇〇〇人(平成九年六月時点)の町である。

板倉町の地形は、ほぼ平坦で、広大な平地となっており、気象条件は、関東地方における平均的なものであり、渡良瀬遊水地に面して水利に恵まれ、自然条件は良好である。板倉町は、昭和四五年五月二五日に全域が首都圏整備法二五条一項による都市開発区域(工業都市、住居都市、その他の都市として発展させることを適当とする地域)に指定されたが、近年まで農業重視の政策をとっていたこと及び昭和五二年市街化区域線引きの都市計画決定をした際に町内の約九〇パーセントの地域を市街化調整区域としたこと等から、従前から農地が多く、産業が育たず、農業の衰退に伴って人口が減少する傾向にあり、住民の中からも地域活性化を求める声があがっていた。また、東武日光線が通っているのに板倉町に駅がないという鉄道交通へのアクセス改善、渡良瀬川、利根川といった治水に関する環境改善等の要望もあり、板倉町にニュータウンを開発することで、これらの問題を解決することが一つの案として考えられるようになった。

昭和六三年ころには、東京から六〇キロメートルの距離である広大な渡良瀬遊水地を、自然環境や防災にも配慮しながら効果的に開発するという開発計画「アクリメーションランド構想」が、遊水地を取り巻く四県(栃木県、茨城県、群馬県、埼玉県)二市四町(小山市、野木町、藤岡町、板倉町、北川辺町、古河市)と東武鉄道株式会社、足利銀行等の民間部門の参加によって進められることとなり、この影響により、渡良瀬川に隣接する板倉町近辺においても都市化の波が押し寄せ、無秩序な開発が始まる恐れがあった。

(〔証拠略〕)

(2) このような状況の中で、平成元年、東洋大学関係者から板倉町長に対し、板倉町に同大学の施設を建設する話が持ちかけられ、以降、板倉町も、同大学誘致による町の開発を検討するようになった。

板倉町企画課が同大学と協議をしたところ、同大学から、新駅を設置することや街区を整備することについて要望が出された。同様に東武鉄道と新駅の設置について協議したところ、周辺の住宅開発を条件とされた。そこで、板倉町は、このような規模の計画となると約一〇〇〇億円を超える資金が必要となるのに、当時の町の財政が五〇億弱であったことから、県の協力なしでは実現は困難と考え、平成元年一二月二六日、群馬県に板倉ニュータウンに関する協力と援助を要請した。

群馬県は、平成二年五月、企業局を含む関係各課の係長クラス、館林財務事務所地域振興室及び板倉町企画課によって構成される邑楽東部総合開発研究会を発足させ、現地調査を行うとともに、東洋大学や東武鉄道との交渉を行い、同年九月までの間に、東洋大学を誘致すること、新駅を設置すること、大規模住宅団地を造成すること、アクリメーションランド関連施設を整備すること等の開発地域の案を取りまとめた。

東洋大学の理事会は、平成一二年九月一七日、板倉町に進出することを正式に検討する旨決定した。

板倉町は、同年一一月一五日より同月二二日にかけて自治会単位で説明会を開催し、大学を核とした町づくりとして、東洋大学の誘致や新駅の設置をすることを説明したが、町民からこれに対しての反対意見はなかった。

群馬県では、同年一二月四日、企画調整会議において右研究会による案が了承され、企業局が新住法に基づく新住宅市街地開発事業等を含めて事業の手法を検討することになり、同月一八日には、知事、副知事、出納長、教育長、企業管理者、各部長によって構成される群馬県政策会議が右案を了承し、東洋大学の施設及び東武日光線の新駅を設置し、道路、学校、商店街、住宅街等を適正に配置する板倉ニュータウンの造成を行うことを決定するとともに、企業局がその担当となった。

(〔証拠略〕)

(3) 企業局は、プロジェクトチームを編成し、開発区域や開発手法を検討するとともに、平成三年四月一日には、局内にニュータウン建設準備室を設置し、板倉町、東武鉄道、東洋大学と協議を重ね、新駅設置、東洋大学用地、道路、公園、学校、病院等の公共・公益的施設を備えた土地利用計画等を検討し、新住法に基づく住宅市街地開発事業として板倉ニュータウンを造成することを決定した。

右計画の基本的な内容は、〈1〉板倉町大字海老瀬地内の北地区一三二・三ヘクタール、南地区七〇・一ヘクタール、合計二〇二・四ヘクタールの地域を開発地域に組み込み、その約三六・四パーセントを住宅用地として、戸建住宅二四〇〇戸、集合住宅一〇〇〇戸を建設し、約一万二〇〇〇人が居住できるようにし、一九・三パーセントを東洋大学を含む教育施設用地に、三五・三パーセントを公共施設用地とする、〈2〉交通に関しては、南地区に東武日光線の新駅を設置して、東京方面へ快速電車で約一時間で移動できるようにし、南北両地点を結ぶ幅員四〇メートルのシンボル道路、鉄道と平行する幅員二〇メートルの幹線道路、幅員一六メートルの南北環状線、放射状で幅員一二メートルの主要区画道路、同心円状で幅員六メートルの区画道路、地区公園及び近隣公園から放射状に広がる幅員一〇メートル及び同心円状の幅員六メートルの緑道をそれぞれ設置する、〈3〉街区の設定に関しては、中央に調整地と親水を配慮した公園、新駅周辺と駅よりのシンボル道路沿い及び北地区中央付近に商業・業務用地、その他の地区に教育施設、独立住宅用地、集合住宅用地等を適正に配置するというものとなった。

開発手法としては、任意売買による土地買収と土地の登記の分合筆や区画整理法による区画整理事業等も考えられたが、本件事業地が首都圏から六〇キロメートル圏内に位置し、新住法一条に定める目的に適合すること、一般的な優良宅地の造成事業、区画整理事業と比べ、処分計画の認可事項等において法的規制があり、街並み形成が計画的にできること、公共・公益的施設整備に補助金の優先的な配慮が期待できること、土地提供者に税制上五〇〇〇万円までの特別控除が認められることから、新住法に基づく新住宅市街地開発事業として実施することとされた。

(〔証拠略〕)

(4) 本件事業地は、右のとおり昭和五二年以降その殆どが市街化調整区域とされていたが、平成六年九月九日、本件都市計画が決定されると同時に、本件事業地全てが一度に市街化区域に取り込まれ、第一種住居専用地域として用途地域の指定がされ、その後これが変更され、その大部分は第一種低層住居専用地域等とされた。

(二)  以上に基づいて、本件事業認可に原告の主張する違法事由が存在し、違法となるか検討する。

(1) まず、原告は、本件事業地は「人口の集中に伴う住宅の需要に応ずるに足りる適当な宅地が著しく不足し、又は著しく不足するおそれがある市街地の周辺の区域」にはあたらないから、本件事業は新住法二条の二第一号前段の要件を欠いたものであったと主張する。

しかし、右規定は、開発事業予定区域自体につき、宅地が著しく不足し、または不足するおそれがある状態にあることを要件としているのではなく、開発事業予定区域が、そのような状態にある「市街地」の「周辺」にあることを要件としているのであって、これは規定文言から明らかである。

本件事業地となった板倉町は、前記認定のとおり、東京都内から約六〇キロメートルの位置にあり、鉄道交通の利便性次第で、東京都内への通勤圏内と言って良い地理的関係にある上、隣接する埼玉県北埼玉郡北川辺町周辺では住宅開発が進みスプロール現象が生じており、同じ群馬県内で、板倉町から五〇キロメートル前後に所在する前橋市、高崎市、藤岡市においても、年々人口が増加する傾向にあり、昭和六〇年から平成二年でおよそ二ないし六・八パーセント増加した(〔証拠略〕)のであるから、本件事業地は、宅地が著しく不足している東京都及びその近郊都市の周辺地域であり、同時に、宅地が著しく不足するおそれがある前橋市等の周辺地域であったものといえ、右要件に欠けるところはない。

(2) また、原告は、本件事業地が「良好な住宅市街地として一体的に開発される自然的、社会的条件を備えて」いないから、新住法二条の二第一号後段の要件を欠くと主張する。

しかし、右自然的、社会的条件とは、開発の対象となるべき適格性を指すことは規定内容から明らかであるところ、本件事業地は、前記認定のとおり、東京都内から約六〇キロメートルの位置にあり、東武日光線の開通によって東京都内へ約一時間で移動することも可能となったこと、既存の道路に加え、本件事業地内にシンボル道路、幹線道路等を新たに設置して交通の利便を向上することができること、板倉町は、従前は農地が多く、地形はほぼ平坦で広大な平地となっていて、気象条件は、関東地方に置ける平均的なものであること、渡良瀬遊水地に面して水利に恵まれ、自然条件も良好であることが認められるのであり、良好な住宅市街地として一体的に開発される自然的、社会的条件を充たしていたといえ、新住法二条の二第一号後段の要件に欠けるところもない。

(3) 次に、本件事業施行にあたり、群馬県知事が、平成六年九月九日、本件事業地を一度の市街化区域に取り込み、同時に本件都市計画を決定した点について検討する。

確かに、新住法二条の二第四号は、開発事業予定地域が都市計画法八条一項一号の第一種低層住居専用地域等の内にあること等を要求しているのであるが、当該予定地域が従前市街化調整区域とされていたかどうかを問題としていないし、一度市街化調整区域とされた地域を市街化区域に変更できないものではない(都市計画法二一条)。

そして、市街化調整区域を市街化区域に編入するについては、昭和五五年九月一六日建設省都市局長通達「市街化区域及び市街化調整区域に関する都市計画の見直しの方針について」及び昭和五七年九月六日建設省都市局長通達「市街化区域及び市街化調整区域の区域区分制度の運用方針について」によって基本的方針が示され、計画的な市街地整備が確実で、かつ、宅地の実供給に資するものについて行うものとされているところ、本件事業地は、平成元年から着々と進められた本件都市計画の対象地域となったので、右条件を充たすことは明らかであり、群馬県知事が本件事業地を市街化調整区域から市街化区域に変更した点にも問題はない。

3  本件都市計画決定の際の意見聴取(違法事由2(三))について

(一)  後記各項末尾の証拠によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 群馬県知事が本件都市計画案を作成するに先立ち、板倉町は、平成五年一一月二四日、東部公民館において本件都市計画の地元説明会を開催し、本件都市計画の内容を説明した。また、群馬県知事は、同年一二月六日、館林市三の丸芸術ホールにおいて本件都市計画案作成に関する公聴会を実施した(都市計画法一六条)。

右公聴会については、事前に開催日時、場所、区域区分の案の概要及び整備等が回覧板等で本件都市計画区域内の住民に公表されており、公述人一名が、公聴会において意見を述べた。

(〔証拠略〕)

(2) 群馬県知事は、本件都市計画を決定するに際し、予め、これを公告するとともに、板倉町において平成六年六月一日発行の広報いたくら第四七九号で本件都市計画の案を縦覧に供する旨周知し、同案は同月二日から同月一五日まで板倉町役場等において縦覧に供された(都市計画法一七条)。

(〔証拠略〕)

(3) 群馬県知事は、平成六年九月九日本件都市計画を決定し、同日付け群馬県報により、計画図書を縦覧に供する旨告示し、計画図書を縦覧に供した(二〇条)。板倉町も広報いたくら第四八三号により、関係図書を縦覧する旨の周知措置をとった。

(〔証拠略〕)

(二)  右のとおり、本件都市計画については、都市計画法の定めるとおりの周知措置がとられていると認められる。

原告は、公聴会の開催の通知が利害関係人である自己に対しなされなかったことを問題とするが、右通知をなすべきことを定めた法規は存在しない上、公聴会は利害関係人との調整を目的とするものではなく、行政に広く住民の意思を反映しようとするものであるから、公聴会の開催を利害関係人に対し通知しなかったことが手続的瑕疵となるものではない。

また、公聴会の公述人は、予め意見書を提出した者の中から代表者として選定されるのが通常であるが(昭和四四年九月一〇日建設省都市局長通達)、誰を選定するか等については、開催者の合理的裁量に委ねられるものであるし、開催場所についても、出席が見込まれる住民の数や利便等を総合的に考慮して合理的裁量により決定される性質のものであり、公聴会が板倉町で開催されなかったことや、原告の知らない地権者会の会長が公述人となったことはいずれも瑕疵とはなりえない。

また、公聴会は、住民の意見を聴く場所であるから、事業区域に指定された土地や工作物の扱い等について説明を行わなかったとしても、瑕疵となるものではない。

そして、地権者に対する地元説明会は、都市計画案作成に当たって、広く住民に対し決定権者の作成になる案を公開し、その理解を求めるというものであり、利害関係人に対する周知措置ではないから、具体的な事業区域の明示等がされなかったとしても瑕疵となるとは言えない。

(三)  以上のとおりであり、本件都市計画の周知措置について、手続的瑕疵は見当たらない。

4  本件事業認可の通知の欠如(違法事由2(四))について

前記争いのない事実等のとおり、建設大臣は、平成六年一〇月二八日、本件事業認可を行い、その旨を起業者群馬県に通知するとともに、同日付けで都市計画法六二条所定の事項を官報に告示したものであるから、本件事業認可についての周知措置も履践されている。

原告は、本件事業認可を知らされず、不服申立ての機会を与えられなかった旨主張するが、本件事業地の地権者に対し個別に通知しなければならないとする根拠はなく、本件事業認可に関する瑕疵になるとは解せられない。

第四 結論

以上の次第で、本件裁決についての原告主張の違法事由はこれを肯定できず、これが適法になされたものと認められるから、原告の請求には理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 舘内比佐志 北岡久美子)

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